E&Jラボ2025 第2回開催レポート

【E&Jラボ2025 第2回レポート】障害者雇用の虎の巻 ~雇用率達成から定着までのアクションプラン~

2025年8月27日、今年2回目となるE&Jラボを開催しました!
今回のテーマは「障害者雇用の虎の巻」。法定雇用率の達成だけでなく、その先の”定着”や”活躍”をどう実現するかを皆で考える場として、多くの人事・D&I担当者が集まりました。

◼︎障害者雇用をめぐる歴史と4つの課題
最初に登壇した、障害者雇用コンサルティングを手がけるVALT JAPANの原田さんからは、これまでの障害者雇用の歩みを振り返るお話がありました。
かつては身体障害が中心だった雇用対象が、知的障害、精神障害へと広がり、2018年には精神障害者の雇用義務化がスタート。法定雇用率も上昇を続ける中、企業にはこれまで以上に多様な人材の受け入れが求められているのが現状です。
さらに現状の課題として「雇用率達成に伴う量的プレッシャー」、「新たな仕事の創出」、「精神障害者を中心とした定着率の低さ」そして「職場全体の理解不足」の4つを挙げられました。

原田さんは「これからの障害者雇用は、”義務”から”価値創造”へとシフトしていく必要がある」と語られました。単なる制度対応ではなく、人手不足に悩む現場にとって”戦力”としての可能性をどう見出していくかは、今後ますます問われる視点だと感じます。

◼︎事例紹介① 全社員を戦力に——ANAが挑むグループ横断の推進体制
続いてANAの井田さんから、自社の取り組みを紹介いただきました。
ANAグループでは、特例子会社を含む11社が連携し、各社に「障害者雇用推進者」を配置して経営層への提言や従業員への啓発を進めています。

井田さんからは、ANAグループ全体の障がい者雇用を支える行動規範「3万6千人のスタート」についてもご紹介がありました。2015年、グループ各社の人事担当者及び障がいのある社員合計50余名による議論の末策定されたもので、この行動規範には、障がい者雇用を法的義務ではなく社会的責任、そして貴重な戦力の確保と捉えるANAグループの姿勢が示されています。「3万6千人のスタート」というタイトルには、「3万6千人(策定当時のグループ全社員数)全員で、新たな変化や挑戦への一歩を踏み出そう!」という想いと決意が込められています。

採用面では、年4回の合同面接会を通じて多様な人材との出会いを広げているものの、2024年度の雇用率は2.71%にとどまり、法定水準ギリギリであることから、さらなる強化が必要だと率直にお話しいただきました。
定着支援としては「配慮すり合わせシート」を活用し、本人の希望や必要な配慮を人事システムに記録する仕組みが整備されています。これにより異動や上司交代があってもサポート内容を引き継ぐ体制を確保しており、担当者個人の熱意に依存しない仕組みとなっているようです。

◼︎事例紹介② 顧客接点に広がる可能性——資生堂が示す職域拡大の事例
資生堂の大西さんは、自社のミッション「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」に基づき、障害者雇用をイノベーション創出の一環として位置づけているとお話しされました。
視覚障害のある社員が電話営業職で活躍したり、聴覚障害のある社員がオンライン接客で手話を用いたカウンセリングを担ったりと、障害特性を強みに生かす事例を紹介。

一方で、精神障害者の採用と定着には依然として課題があるとのこと。応募者の半数以上が精神障害者である現実を踏まえ、面談回数を増やして一人ひとりの状況を丁寧に把握しているそうです。また、職場の理解促進のために障害理解セミナーを開催し、上司や同僚が適切に関わる方法を学べる機会を設けており、こうした積み重ねが安心して働ける環境づくりにつながると語られました。

◼︎事例紹介③ 安心できる制度設計と厳選採用——三菱地所の現場支援
三菱地所の城所さんは、制度と現場の両輪で障害者雇用を支えているとお話しされました。
同社は単体で2026年7月以降の法定雇用率以上の雇用を達成しており、その背景には障害者専用の就業規則の整備があります。また、無期雇用であること、欠勤時の給与保証、職種転換制度といった仕組みにより、社員が安心して働き続けられる基盤が整えられています。

さらに「一部署に障害者一名以上を配属する」という方針で進めることで、全社的なインクルージョンを推進しているそうです。採用はキャリアエージェントを通じて行い、採用自体をゴールとせず、採用後の活躍を重視している点も紹介されました。加えて、臨床心理士による定期的な面談を導入し、日常的に社員と関わることで不調を早期に発見し、離職防止に役立てられているとのことでした。こうした仕組みが定着率の高さにもつながっているのだと感じました。

◼︎採用から評価まで 3社に共通する工夫と課題
3社の事例紹介の後には、採用から定着、教育、評価までをテーマにしたディスカッションが行われました。

採用面
まず採用について、ANAの井田さんは、グループ内で年4回の合同面接会を実施していると紹介しました。オンライン形式で20社ほどが参加し、毎回500名近い応募者が集まるとのことで、内定率は約15%に達するとのことでした。

続いて、資生堂の大西さんからは、グループ全体で障害者雇用達成を目指し、通年採用を基本としながら、エージェント経由も含め複数のルートを活用しているとお話がありました。

当事者といっても多様な方がいるため、それぞれのできること・できないこと・苦手なことを踏まえ、本人が力を発揮しやすくするためにも、本人のサポート面と、周囲で一緒に働く社員に対しても、どのような工夫があると働きやすくなるかを考えながら、採用の窓口を広げている点が印象的でした。

また、三菱地所の城所さんは、キャリア採用を中心にエージェントからの紹介を受け、「一部署一名」という方針に基づいて配属を進めているとのこと。事前に人事が各部署へ説明を行い、理解を得た上で、最終面接では配属予定部署メンバーも同席し採用可否を判断することで、現場での受け入れがスムーズになっていると補足しました。

定着面
次に定着支援については、ANAの井田さんから「配慮すり合わせシート」を導入していると紹介。本人の希望や必要な配慮を面談で記録し、人事システムに反映する仕組みで、異動や上司交代があっても情報が引き継がれるため、本人の負担を減らすことにつながっているようです。

資生堂の大西さんは、精神障害者の定着を支えるために職場向けの障害理解セミナーを実施し、周囲の理解を深めているとお話しされました。

また、三菱地所の城所さんは、臨床心理士が定期的に面談を行い、平常時から社員の様子を見守ることで不調を早期に察知し、離職を防いでいると紹介しました。

教育面
教育の取り組みについて、ANAの井田さんは、オンデマンド教材やユニバーサルスタンダード検定を導入し、客室乗務員や整備士など現場職種を含めて学習機会を広げていると紹介しました。

また、資生堂の大西さんは、障害理解ブックを作成し、社員が自ら学べる環境を整えていると説明しました。

三菱地所の城所さんからは、「一部署一名」の方針を経営会議で承認し、トップの意思を現場に示すことで導入をスムーズにしているというお話があり、経営層の巻き込み方に工夫が感じられました。

評価面
評価のあり方については、三菱地所の城所さんが、健常者と同じ制度を基本としつつ必要な配慮を行い、公平性を重視しているとのお話がありました。

ANAの井田さんは、「エキスパートスタッフ職」という専門職制度を活用し、障害者が専門性を伸ばせる枠組みを用意していると紹介しました。ただし、健常者から「優遇ではないか」と誤解される場合もあり、制度理解の浸透が課題となっているそうです。

議論全体を通じて、制度整備だけでなく現場の理解や成功事例の積み上げが不可欠であることが共通の認識として浮かび上がりました。

◼︎クロージング
最後に登壇者からメッセージが寄せられました。

はじめに、ANAの井田さんは、一社だけでは限界があるため業界や社会全体で取り組むことの重要性を力強い言葉で述べられました。

資生堂の大西さんは、課題の解決には時間がかかるからこそ、成功事例を一つひとつ積み重ねていくことが大切だとお話しされました。

三菱地所の城所さんは、まず知ってもらうことが第一歩であり、そこから共に取り組みを進めていきたいと呼びかけました。

最後にVALT JAPANの原田さんは、障害者雇用をより広く就労困難者支援全体の文脈で捉え、社会的な活用の可能性を広げていく必要があると指摘しました。

トークディスカッション後の交流の時間では、参加者はグループに別れてそれぞれの所属企業の取り組みや課題等を共有し、活発な意見交換の場となりました。

今後もE&Jラボでは様々なダイバーシティ推進に関するテーマでゲストをお呼びし開催していきます。企業の枠を越えて、ダイバーシティを楽しみながら推進するコミュニティにご関心のある方はぜひご参加ください。