2023年度の取り組み

(開催レポート)農業の衰退はSDGsにも影響?課題を学び、体験しよう~体験企画~

農業とSDGsの関係について学び・体験する企画を、セミナー体験の2回に分けて開催いたしました。11月23日(木・祝)に行われた体験企画に参加した、農ジャーナリスト/ベジアナの小谷あゆみさんによる、当日の体験リポートをお届けします。(上:髙橋さん(前列中央)と参加者のみなさま、前列最右が筆者(小谷さん))

国内農業の衰退がSDGsおよび、私たちの暮らしや経済にどう影響するのか

 こんにちは、農ジャーナリストで野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」の小谷あゆみです。
 まずSDGs(持続可能な開発目標)に欠かせないのは、「環境、社会、経済」の3つのバランスです。持続的に人間の活動を営むにはこの3つのバランスが大前提で、とりわけその根幹をなすのが環境(自然資本)です。
 この自然環境から恵みを得るのが農(林水産)業ですが、それは同時に、気候変動や自然災害などの影響をもろに受けるということを意味します。
 また近年、世界情勢の不安などによる国際的な原料価格の高騰が、生産者の経営を圧迫しています。
 さらに、豊かな四季に恵まれている日本農業は、一方で農閑期と農繁期の差が激しいため、通年雇用しにくく、労働条件により人材を確保しにくいという背景もあります。
 そこで今回、農繁期を迎えた生産者のもとへ、「援農」体験に行ってきました。

落ち葉堆肥農法~江戸から続く、循環型農法~

埼玉県三芳町上富にある高橋農園は、江戸時代から続く農家で、通りには30軒ほどの農家が並び、「いも街道」と呼ばれています。
 農作業に入る前に、11代目の園主、髙橋敦士さん(45)から、地域の歴史について説明を受けます。
 この地域は、江戸の人口増加に伴う食料供給地として開拓されました。やせた土地だったため、先人たちは原野に木を植えて雑木林を作り、その落ち葉を掃き集めて堆肥にするという超長期的な土づくりを、360年繰り返して来たのです。まさに持続可能な循環型農法!この伝統的な知恵と技は「武蔵野の落ち葉堆肥農法」として、国連の食糧農業機関(FAO)により、2023年7月に「世界農業遺産」に認定されたばかりです。(右:園主の高橋さん)

農作物の生命力と、農作業の大変さを肌で感じる

髙橋さんは、2018年に法人化し、社員も雇用する地域のリーダーです。
 畑では、土の中から色鮮やかなサツマイモを機械で掘りだすお手伝いをしました。
イモから伸びる根っこのヒゲの長さに驚いていると、髙橋さんが、「猛暑と少雨の影響で土中の根っこが発達し、今年は根っこが長くなった」と教えてくれました。
(右:サツマイモの収穫をお手伝いしました)

日照り続きで土が乾いたことで、サツマイモの根っこが毛細血管のように発達する様子が目に浮かび、農産物の「生命力」を感じます。こうした現場ならではの発見や感動は、売っているサツマ イモからは感じることができません。
 また選別では、サイズに分けたり、ヒゲ根を包丁でカットするなどの細かい作業があり、実は収穫よりも、その後の選定や梱包に、何倍もの人手が必要だと知りました。(左:選定作業は手作業が多く、時間がかかりました)

生産者から生の声を聞き、農業の課題を実感

地元食材を使ったBBQを楽しんだ後、意見交換会で髙橋さんから、農業の現状と課題を伺いました。
 今は焼き芋や干し芋が人気となり、空前のサツマイモのブーム。生産したら、その分売れる状況ですが、人手不足が問題です。大型機械を導入しても、結局は操作する人員が必要です。(右:地元食材を頂きました)

髙橋さんは、社員さんのほかにも、繁忙期だけパートさんを雇用する等で、人手をなんとか確保をしていますが、農業全体の労働力不足を解決していくには、ボランティアや休日だけでも農業に関わり、農業に理解・関心のある、関係人口を増やすことが大切だと語りました。(左:農業の課題について語る髙橋さん)

援農がウェルビーイングの向上にも

 普段は高層ビルの中でパソコンに向かうことが多い、都心で働く参加者のみなさん。広々とした秋空の下、土に触れて身体を動かすことは、何より心地よいものです。自ら積極的に身体を動かすことで、社会貢献になり、地域が活性化する。また地域の農業に役立つ有用感は、ウェルビーイングの向上にもなります。
 楽しさ、知的好奇心の満足、心身にとってもヘルシーで、学びの多い体験企画になりました。参加者からは、「青空の下でサツマイモ作業は楽しい」、「また作業を手伝いたい」、「会社で何か連携ができないか考えたい」といった声や、「農業には、賃金だけではない魅力がある」、「援農に興味があったけど、知らない農家のところへは行けないので、こういう企画は魅力的」などの意見がありました。
 農業課題の解決は、SDGsのベースとなる「社会」「環境」「経済」の調和がとれた社会をつくることにつながります。食料や農業の背景を知り、土に触れて生き物の息吹を感じ、できることから手伝えば、都市と農業はWinwinの関係が築けます。

 参加した個人や地域、組織や社会にとっても、三方よし、四方よしですね。髙橋さん、お土産のさつまいもをたくさん、ありがとうございました。

ご関心のある方は「JA援農支援隊」にご相談を

 今回協力のあった「㈱農協観光」では、人手不足の農業者と、援農体験に関心のある企業や学生をマッチングする援農ボランティア「JA援農支援隊」という取り組みがあります。 
 参加した企業からは、「SDGsの取り組みになる」という意見や、「地域に貢献した達成感が得られる」といった感想、またまた援農後は活気が増し、心理的にもポジティブになるという研究結果も出ています。ご関心のある方は、農協観光ホームページ(https://ntour.jp/agribank/)をご覧ください。