2022年度の取り組み

~全6回軽食つきセミナー~「SUSTABLE(サステーブル)2022」Vol.2【海を再生する海上養殖】開催レポート

「サステナブル・フード」について“おいしく・楽しく”学ぶプログラム「SUSTABLE 2022」vol.2【海を再生する海上養殖】が2022年8月23日(火)に開催されました。

今回のご登壇者はパタゴニア プロビジョンズの近藤勝宏氏と、株式会社BAKERUの長屋英章シェフ。

パタゴニア プロビジョンズのムール貝をテーマに、海を取り巻く問題とその解決策について学びました。 まずは、パタゴニア プロビジョンズ ディレクターの近藤氏から、パタゴニアが食品事業に参入した経緯についてご説明頂きました。

パタゴニア創業メンバーの写真を見せながら話す近藤氏

1960年代、「三度の飯よりもアウトドアスポーツが好き」と言う人たちが集まり、山登りをするための道具を自ら作り始めたことがパタゴニアの起源。1970年代にはその製品の質の高さから、同社はアメリカでも随一のアウトドアブランドに成長しましたが、自分達のビジネスがうまくいけばいくほど、自分達が大好きな自然が壊されていくというジレンマを感じ、ビジネスと自然環境の共存について追求し始めたそうです。

そして、1990年代はじめ、同社は「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」というスローガンを発信。自分達の製品が、環境にどれだけのインパクトをもたらすのか査定するようになりました。

その具体的な取組みのひとつとして、同社の全てのコットン製品をオーガニックコットンに変更することを決定。これは当時、とても先駆的な取組みでした。
「自然素材のコットンも実は大量の農薬を使っていて、農薬を使った農地はその後3年間何も育たないし、農家の人たちの癌の発生率の高さなど、ウェアをつくるための綿の生産が環境と人に与えるインパクトの大きさに気がついた」と近藤氏は話します。

オーガニックコットンの採用により、有害な化学物質の使用とその影響を抑えることができましたが、それでも、地球の気候変動問題は悪化する一方。同社は、創業者イヴォン・シュイナードが掲げた「問題の症状を超え、問題の原因について話せていると確信が持てるまで何度でも問い続けるべきだ」との信念から、気候変動問題に大きな影響を与えている「食と農業」に着目し、ビジネスでこれを解決することを考えました。
誰でも1日に3回食事をすることを考えると、食の作られ方、選ばれ方を変えたときの地球へのインパクトはとても大きなものになります。
環境を”再生”する方法で食品をつくり、それが選ばれる世の中になれば、食と農業は「問題の一部」ではなく、「解決策の一部」になるはず。つまり、やればやるほど良くなっていく。パタゴニア プロビジョンズが展開するのはそんなビジネスモデルであると近藤氏は話します。

現在パタゴニアは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」を企業理念に掲げています。食品事業参入の経緯からも、同社の一貫した強い意志が感じられました。
次に、本日のテーマである「海」について。
「地球は70%が海ですよね。海は炭素の重要な貯蔵庫であり、人類が口にする約20%のタンパクを生み出しています。海を管理し、人も環境の一部として海と付き合っていくことがとても重要なんです。」と近藤氏。続けて同社が今年公開した「The Ocean Solution」を鑑賞し、海の生態系(エコシステム)を”再生”していくことの大切さを学びました。

パタゴニアが公開した「The Ocean Solution」鑑賞の様子
会場キッチンで仕上げをする長屋シェフ

”Sustainable〔持続可能〕”の先にある、”Regenerative〔再生〕”という考え方について学んだ後は、同社が公開する動画「sourcing mussels(ムール貝の調達)」を鑑賞しました。スペイン ガリシア地方の美しい港での、ムール貝養殖の様子を伝える動画です。
二枚貝には、海中の窒素やリンの循環を助け、海の環境を”再生”する力が備わっています。このムール貝も、この力を活かした”Regenerative”な方法で生産されていて、生育の過程で餌も肥料も要らず環境負荷が低く、EUオーガニック水産養殖認証を取得しています。

海の解決策となるこのムール貝への期待が高まる中、本日の試食が提供されました。

長屋シェフが表現した「再生と絆」の一皿

●メニュー
〜再生と絆〜
「パタゴニア プロビジョンズ」の【ムール貝】のCraft Burgerと
OTEMACHI産のイエルバブエナのティーペアリング

パタゴニア プロビジョンズのムール貝を美しい一皿に仕上げてくれたのは長屋英章シェフ。Food design by HIDEAKI NAGAYAを立ち上げ数々の有名レストランをプロデュースする傍ら、海の持続可能性を守る「クラフトフィッシュ」の活動にも参画するなど、環境問題や生き方・価値観の多様性を発信されています。

「ムール貝は細かくきざみ、擦り流した野菜と和えて衣をつけ、カラッと揚げたカツに。甜菜糖のビーツで作ったふわふわの自家製バンズに、特製ソースと共に挟み込んでいます。ドリンクには会場近くの大手町ビル屋上農園“The Edible Park Otemachi”で育ったハーブを使ったティーソーダを添えました。」と長屋シェフ。なんとハーブは長屋シェフ自らがイベント当日の朝、摘み取って下さいました。免疫力を高める野菜のピクルスを添えるなど、随所に長屋シェフの愛情と優しさが感じられます。

ご自身を「口下手だ」と言う長屋シェフ。海外での活動も長かったため、言葉ではなく料理を通じて会話することを繰り返してきたといいます。
「会場でも放映したガリシア地方のムール貝の動画を拝見したときに、20年前に行ったヨーロッパの海の美しさを思い出しました。それが今失われようとしているということを表現したくて、バーガーの下に海の写真を敷いています。」と長屋シェフ。敢えてモノクロに印刷した写真を敷いています。

本日の一皿について説明する長屋シェフ

「 “触る”っていう行為から感じとれることはとても多いんです。だから、今回は片手で召し上がって頂けるハンバーガーにしました。触れることで想像力も掻き立てられると思うんです。これは何からできているのかな?どこからきているのかな?と想像して、気がつくことってとても大切で。そういう意識から次の行動が変わっていくんじゃないかって思います。」と長屋シェフはハンバーガーに仕上げた理由を話します。

パタゴニアの「ネットプラス」(漁網のアップサイクル製品)。
同社の取り組みに、肌で触れてほしという長屋シェフのご提案で会場に展示しました。

長屋シェフは自らを「フードデザイナー」と称し、野菜や魚などの生産にも関わっています。
そんな長屋シェフは、海を再生し、修復していくパタゴニアの取り組みを「地球規模で問題を捉え、その解決策を示す最先端の取り組み」と称した上で、「生産の時点でも料理は始まっている。これからの料理人の在り方として、キッチンで食材が入ってくるのを待つだけでなく、畑に行って野菜を育てるなど、安心・安全な食材をつくることから携わって行く必要がある。」とご自身の考えを示しました。

対談の様子

視覚や触覚、五感の全てから“海”を感じられるハンバーガーを頂いたあとは、未来へのアクションを考えるクロージングトークに移ります。

長屋シェフは、母校で子供たちに食育の授業を行ってきた経験から、「子どもじゃなくて、勉強しなくてはならないのは大人なんじゃないか。」と問いかけます。
「これからはどんどん食の選択肢が増えていく時代。例えば海産物については、日本人は天然信仰が強いけれど、“天然/養殖”の2択で捉えるのではなく、安全かという基準で考え、選択していってほしい。」と話しました。

近藤氏は、自身の今後のアクションとして、不耕起栽培での野菜作りを継続していきたいと話し、「自分で食物を育ててみることも、食べ物の背景を知ったり、自然との距離を縮めるためにもとても有効です。」と参加者に呼びかけました。
また、パタゴニア プロビジョンズの活動については、「今後は日本の歴史や文化に沿った製品を展開していきたい。そして、そういった製品が選ばれる世の中づくりにも貢献するような、消費行動に変化をもたらす企業でありたい。」と今後の事業展開に関する抱負を語りました。

私たちが生きていくために必要な「食料を生産する」という行為。これによる環境への悪影響を「抑える」のではなく、むしろ「再生」していくというパタゴニアの考え方は、これからの私たちの活動に大きなヒントを与えてくれました。そして、大人こそ、五感を使って学び続けることが大切であると、長屋シェフの一皿が教えてくれました。


アクション実施概要

開催日時2022年8月23日(火)18:30〜20:00(開場18:00)
開催場所MY Shokudo Hall&Kitchen
(東京都千代田区大手町2-6-4 TOKYO TORCH 常盤橋タワー3F)
出演者
(順不同)
◆ パタゴニア日本支社
  パタゴニア プロビジョンズ ディレクター 近藤勝宏氏
◆ 株式会社BAKERU 執行役員 兼 エグゼクティブシェフ 長屋英章氏
定員会場参加:30名/オンライン参加:500名
参加費会場参加:1,000円/オンライン参加:無料
主催大丸有SDGs ACT5実行委員会/三菱地所株式会社 EAT&LEAD