「サステナブル・フード」について“おいしく・楽しく”知っていただくためのプログラム「SUSTABLE 2022」第1回【古来種野菜の世界】が2022年7月21日に開催されました。
突然ですがみなさん、「古来種野菜」をご存じですか?一般的なスーパーマーケットにほとんど並ばないため、耳にしたことのない方も多いのではないでしょうか。
「古来種野菜」とは、その種を代々受け継ぎ、古来から守られてきた野菜のこと。全国各地でその風土に適応してきた古来種野菜は、それぞれの地域で育まれてきたからこその豊かな多様性をもっています。そんな「古来種野菜」が今、失われつつあることをご存じでしょうか。
今回のSUSTABLEでは、古来種野菜を専門に販売する八百屋「warmerwarmer(ウォーマーウォーマー)」代表の高橋一也氏、そして、「食育」の第一人者であり、「丸の内シェフズクラブ」会長も務める服部幸應先生をお招きし、古来種野菜を題材に”自然との共生”について考えました。
「古来種野菜」の種を次の世代に受け継いでいきたいという想いから、全国各地の農家から貴重な古来種野菜を集めて東京で販売をしている高橋氏。その活動のスタートは2011年に遡ります。
自然食品小売業のバイヤーとして全国各地の生産者の元を訪れていた高橋氏。とある食材との出逢いが、高橋氏の人生を変えたそうです。
「日本各地、大根といえば“青首大根”が主流で、他の品種を作っているところは稀。そんなある日、農家さんのところで“平家大根”という大根に出会ったんです。その大根は、この方が作るのをやめたら途絶えてしまうというものでした。平家大根を食べて驚きました。深みのある味、そして食べる場所によって味が違う面白さ…あまりの美味しさに、二の腕がゾクゾクしたのを覚えています。本当にこの野菜を途絶えさせて良いのか?そう思ったのが、今の仕事を始めたきっかけですね」と高橋氏。
減少の一途を辿っている古来種野菜ですが、実は1,214種を超える品種が、今もひっそりと受け継がれて残っており、大根だけでも100種類以上、カブだけでも80種近くにもなるそう。
「市場では野菜の規格(大きさや形)が揃ってないと流通に乗せづらいこともあり、F1種という特定の目的をもって改良された品種が一般に流通していますが、画一化されていないところが本来の野菜の姿だと思っています。古来種野菜は不揃いで一つひとつ形が違ったり、収穫が非効率的だったり、育成速度もバラバラ、味も個性的ですが、各地の風土に合わせて適応してきた魅力的な野菜なんです」と高橋氏。
この説明に服部先生も「江戸時代はお城からの移動距離に合わせて食材を作りわけていたんですよね。30キロ圏内は足の早いもの、50キロ圏内は2日間の移動に耐えられるもの…と。今主流の青首大根は、首がちょっと土から出ていて抜きやすく、箱に詰めやすいよう規格が揃うように改良されています。人にとって楽な品種がどんどん作られてしまっていますが、昔は苦労してじっくりと野菜を作っていたんですよね」と頷く。
「今は旬も無くなってきているよね。みなさん、旬って“走り・盛り・名残”の3つあるのをご存じですか?“走り”は、まだそんなに味はのってないけど、珍しくて価値がある、“盛り”はは美味しくて栄養価が高い、“名残”は、これを食べてしまったら来年まで食べられないと、名残おしく楽しみ大切にするんです」と服部先生。
さらに、現在の日本の食料自給率がカロリーベースで37%しかないことや、1960年初頭まで農業国だった日本も、1964年の東京オリンピック開催に向けて産業革命をスタートさせたことをきっかけに、当時1175万人いた農業従事者が136万人にまで減ってしまったことなど、日本を取り巻く農業の歴史についてもお話し頂きました。
「人手が少なくなった分、効率的な農業になったけれど、その分大切なものをなくしているような気がします」と高橋氏。
続けて服部先生は、「現在、地球上では動植物が175万種いるんですが、毎年4万種ずつが絶滅しているんです。このままだと単純計算をすると約45年で地球上から動植物がいなくなってしまうんです。お子さんやお孫さんたちの暮らしを守ためにも、持続可能な社会を作っていくことが大切。みなさんも古来種野菜など、郷里の食を見直して、暮らしの中に豊かな多様性を取り込んでもらえたら」と会場の参加者に呼びかけました。
つぎに、お出汁のいい香りに包まれた会場では、学校法人服部学園服部栄養専門学校日本料理チームの皆さんによる、古来種野菜の一汁三菜が振る舞われました。
献立についてご説明してくださったのは、同校の日本料理主席教授・西澤辰男先生。
●お献立(太字:古来種野菜)
・吉川茄子のしぎ焼き
(おかひじき・三宝甘長唐辛子・大葉・茗荷子・糸カツオ・車海老・旨出汁・絞り生姜)
・だし
(天狗茄子・つばさ胡瓜・オクラ・大葉・茗荷子・塩昆布・胡麻)
・お椀
(会津丸茄子・胡麻豆腐・柚子)
・ご飯
・とっとき一号とだし昆布の佃煮
「しぎ焼きに使われた吉川茄子は、10年前に亡くなられた農家のおじいちゃんが、代々引き継いできた種を一人で守っていたものなんです。ここまで残してくれたおじいちゃんに本当に感謝していますし、料理を通じて、野菜を通じて、私たちが忘れてはいけないことを今後も伝えていきたいと思います」という高橋氏の言葉に、皆が深く頷く場面も。
続いて、話題は「農」と「農業」の違いに移ります。
「“農業”って安定した収穫を望む中でできあがってきた仕組みなんですよね。大量消費社会を支え、効率を上げるために画一化されてきました。目的を持って野菜を改良することで、経済や流通がうまく回るようになった。この仕組みを私は悪いとは思っていませんし、昔に戻そうとしているのでもありません。ただ、生産性が低くて効率が悪くても途絶えさせてはいけないものがある。私は日本の風土と季節の移ろい、そして人を繋げる“農”を、古来種野菜を通して残していきたい」と高橋氏。
また、会場では種採り前の野菜の「さや」をお見せいただく場面も。「例えば大根なら、根っこをみなさん食べていますが、そのまま育てると花が咲き、受粉して、さやができ、その中に種ができるんです。わたしたちは種ができるための栄養がたっぷり入ったところ(根っこ)をいただいているんですね。野菜を食べるってことは、このように“全て”をいただいているってことなんです」と高橋氏。
服部先生も「こんな貴重なものを見せてもらえて驚きました。こういうものを見せていただくと、生命の原点を実感させられますね。」と頷く。
続けて服部先生は、「ご参加の皆さんは、いい気づきをお受けになったのではないでしょうか。この気づきを大事にして、消費者の一人としてこのことを広げるお手伝いをしていただきたい。生産者の方は本当に頑張ってらっしゃいますが、消費者の方々がより理解してくだされば、もっといいものを作れるし、それが手に入りやすくなるようになる。私も頑張るのでよろしくお願いいたします」と締めくくった。
日本の豊かな風土が育んできた「古来種野菜」。これまで脈々と繋いできたこの多様な生命を絶やしてはいけないと気づき、自然とともに生きていくとはどういうことか、それぞれが考えを巡らす一夜となりました。
アクション実施概要
開催日時 | 2022年7月21日(木)18:30〜20:00(開場18:00) |
開催場所 | MY Shokudo Hall&Kitchen (東京都千代田区大手町2-6-4 TOKYO TORCH 常盤橋タワー3F) |
出演者 (順不同) | ◆warmerwarmer(ウォーマーウォーマー)代表高橋一也氏 ◆学校法人服部学園服部栄養専門学校理事長・校長服部幸應氏 |
定員 | 会場参加:30名/オンライン参加:500名 |
参加費 | 会場参加:1,000円/オンライン参加:無料 |
主催 | 大丸有SDGs ACT5実行委員会/三菱地所株式会社 EAT&LEAD |