「サステナブル・フード」について“おいしく・楽しく”知っていただくための新プログラム「SUSTABLE」の第6弾【日本酒とお米】が2021年11月25日に開催されました。
日本の伝統食である「お米」の生産現場が、マイクロプラスチック問題を抱えているということをご存知でしょうか。
人材不足が叫ばれる米農家のなかには、生産体制を維持する上でプラスチック製の被覆肥料を使用せざるを得ない現実があります。この肥料プラスチック被膜は、お米の生産の過程でそのまま河川に流れ込み、マイクロプラスチックとなって海洋を汚染します。
1662年創業の酒蔵「宮坂醸造」の次世代を担う宮坂勝彦氏は、ワイン動向を知るソムリエの石田陽介氏の紹介により、米農家である有限会社ファームいちまる 丸山房洋氏との対話からこの問題への気づきを得ました。
今回のSUSTABLEでは、宮坂氏と丸山氏のお二人から「日本酒」と「お米」が抱える課題についてお話しいただいたほか、環境省から清家裕氏を、料理人(使い手)としてサンス・エ・サヴールの鴨田氏をお迎えし、これらの課題を克服するために社会全体としてどんなアクションができるのか、多角的な視点で考えました。
まずは、宮坂醸造の宮坂氏より「風土に根ざした産業をつくる」という企業理念を掲げたきっかけについて、お話をいただきました。
夏は海でサーフィン、冬は山でスキーなど自然の美しさ豊かさを体感していた学生時代。実際にフィールドに出ると、ビーチや山の片隅には大量のゴミが。「なぜこんなに美しい自然を、我々人間は経済活動の中で破壊してしまうのか」と考えていました。そんなとき出会ったのがアメリカ生まれのアウトドアブランド「Patagonia(パタゴニア)」。「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッションのもと、それを体現していく企業活動に感銘を受け、自身の家業である「酒造り」を通じて、地元の風土を活かした産業づくり、そして自然環境を良くしていくこと、伝統や文化を継承していくことが、人生のミッションとなったことをお話しいただきました。
また今回のトークテーマでもあるプラスチック製のコーティング肥料を使わざるを得ない、農家の現状についても言及。「一昨年、丸山さんに田植えしたばかりの酒米の田圃を見せていただいた際、無数に浮かんでいる黄色い破片が、全て肥料を覆っていたプラスチック膜だと知り、知らなかったことを恥ずかしく思った」と当時を振り返る場面も。
続いて、酒米の名産地・長野県安曇野市で北アルプスの雪解け水を使った丁寧な酒米づくりに従事し、自然を相手にする米農家として、プラスチック製の被覆肥料を使用しなくてはならない現状について発信している、有限会社いちまるの丸山氏が登壇。
お米の栽培には、「田植え」時だけでなく「稲穂が出る直前」にも肥料をあげる必要があるが、気温30℃を超える猛暑のなか、20kgもの重さの機械に15kgほど肥料を入れて背負い、ぬかるんだ田圃を歩いて肥料を撒くことは、高齢化の進む農家においては難しいこと。プラスチック製のコーティング肥料は、農地の大規模化や産業化に貢献してきたことや、農家の高齢化・人手不足を補うために不可欠である現状を、体験をもとにお話しいただきました。また、米価の下落や農業機械の単価上昇により、若い人たちが「農業」に夢を見られない商売になっているというお話も。
「どうすればこの問題を解決できるのか、具体的な策はまだないですが、まずはみなさまにこの事実を知っていただくことで、新しい肥料の開発支援や、公的サポートの一歩に繋げていけたら」と語っていただきました。
続いて、環境省・清家 裕氏より環境省での取り組みについてご紹介いただきました。
そのなかで特に興味深かったのは、「SDGsはコミュニケーションツールであり、PRツール。硬いものだと思い込まず活用してほしい」という清家氏のコメント。「地産地消・旬産旬消を意識する」「有機(オーガニック)食品を選ぶ」など、身の回りでできる簡単なアクションを起こしていくだけでも、SDGsで設定している17のゴールにつながることをお話しいただきました。
加えて、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の重要性について、「今後は新しい製品をつくる段階で出口(捨てるのではなく循環させる)まで考えておくことが大切。今回の課題であるプラスチック製のコーティング肥料に関しても同様だが、まずは代替となる技術開発を進める必要がある」とお話しいただきました。
また、会場キッチンでは、丸の内シェフズクラブのメンバーであり、東京・丸ビル35F「サンス・エ・サヴール」の料理長・鴨田猛氏が、ファームいちまるの新米と宮坂醸造「真澄」の日本酒や酒粕、甘酒を使用した、スペシャリテとスイーツを提供。
●MENU
若狭湾産寒鰆のマリネ 焦がし蜂蜜とレモンのヴィネグレット
いしまるファームさんの新米とカリフラワーのパンナコッタ
苺と宮坂醸造<真澄>のショートケーキ
スポンジ生地×酒粕×日本酒/ シャンティークリーム×シャーベット×甘酒
●SAKE
真澄 スパークリングOrigarami
真澄 あらばしり
そして今回は、SUSTABLE初の日本酒の振る舞いも。
宮坂醸造「真澄」のスパークリング「Origarami」と、しぼりたての生原酒「あらばしり」の2種類が各テーブルにサーブされました。
また料理の一皿目は、丸山氏が育てた新米をムース状にしてパンナコッタに。契約農家から仕入れた有機栽培のカブと寒鰆のマリネ、香ばしい焦がし蜂蜜のソースと爽やかなレモンで仕上げた、目にも美しい一皿がサーブされると、参加者は思わず笑顔に。そして会場が一段と盛り上がったのはデザートのショートケーキ。スポンジ生地は酒粕を使って発酵させることで生地がさらに軽く、シュワッとした口溶けの良さに。砂糖をなるべく使わずに甘酒で甘みをつけていることに鴨田氏が言及すると、会場からは驚きの声が上がりました。
生産者の視点や産地とのリレーションを大切にしている鴨田氏。
「サンス・エ・サヴール」では、ほとんどの食材を生産者から直接仕入れているそう。そこで意識しているのは“国産国消”。「丸の内という東京の玄関口だからこそ、日本中の素晴らしい食材を提供できる。様々な生産者さまと出会って、想いや背景のある食材を知れば知るほど応援したくなります。食卓を通じて、その想いを伝えたり問題提起をする場を増やしていけたら」と熱く語ってくださいました。
その後のトークセッションでは、日本人の象徴ともいえる日本酒とお米が抱える課題について、一般にはもちろん、業界の中でも課題として語られることは少なく、認知していない人も多いこと。認知していたとしても、見て見ぬふりをせざるを得ない現状など、厳しい現実について議論が交わされました。
では、解決のために「一歩進むため」にはどうしたら良いのか…。このトークセッションで出た答えは「まず、知ること」でした。
“私たちが当たり前に食べてきたお米に、このような課題が隠されていたこと”
まずはその事実を多くの人に知ってもらい、声を上げること。それが30年、40年、100年後の未来の子どもたちに美しい田園風景を残す第一歩となるはずです。
そして、トークセッションの最後には、「未来の食のために、私たちが明日から起こせるアクション」についてのお話も。そこで出た答えは「知ること」、そして「楽しむこと」でした。
「なんでこのお酒は100円で作れるのだろう」「同じ商品棚に並んでいる砂糖なのに、こんなに金額が違うのはなせ?」など、身の回りにある食材や商品がどういうふうに作られているのか、ストーリーを知ること。そしてそれを楽しむこと。
清家氏の「楽しくないと続かない」という言葉が印象的でした。
私たち日本人の象徴ともいえる「日本酒」と「お米」。改めてその美味しさを味わいながら、未来を変えるためにどんなアクションができるのか、一人ひとりが考えさせられた一夜でした。
アクション実施概要
開催日時 | 2021年11月25日(木)18:30〜20:00(開場18:00) |
開催場所 | MY Shokudo Hall & Kitchen(東京都千代田区大手町2-6-4 TOKYO TORCH 常盤橋タワー3F) |
出演者 (順不同) | ◆宮坂醸造株式会社 社長室室長 宮坂勝彦氏 ◆有限会社ファームいちまる 代表取締役 丸山房洋氏 ◆環境省大臣官房環境保健部環境保健企画管理課/食と環境チーム 課長補佐 清家 裕氏 ◆サンス・エ・サヴール 料理長 鴨田猛氏 |
定員 | 会場参加:30名/オンライン参加:500名 |
参加費 | 会場参加:1,000円/オンライン参加:無料 |
主催 | 大丸有SDGs ACT5実行委員会/三菱地所株式会社 EAT&LEAD |
後援 | 国連広報センター |