2023年度の取り組み

SUSTABLE2023vol.1【食品ロスが生み出す新たな可能性】開催レポート

SUSTABLE(サステーブル)2023~未来を変えるひとくち~第1回が7月26日に開催されました。

 食従事者と消費者をつなぎ、未来の食卓に変化を起こす「SUSTABLE(サステ―ブル)2023」。

 第1回は、食品ロス由来の飼料で育った豚肉と、ワインの搾りかすを利用して育ったきのこを題材に、食品ロスから新たな付加価値を生み出す方法や、資源循環と経済の両立について3名のゲストの皆様とともに考えました。

 食品ロスを活用して育った食材と聞いて、「それって美味しいの?」と疑問が湧く方もいらっしゃるかもしれません。そんなイメージを覆す素晴らしい料理とともに、食品ロス問題の解決策や資源循環について考えたイベントの様子をレポートします。

【第1回ゲストの皆様(順不同)】
◆株式会社日本フードエコロジーセンター 代表取締役/獣医師 高橋 巧一様
◆ワインきのこ株式会社 取締役 戸田 達昭様
◆レストラン モナリザ オーナーシェフ 河野 透様
【ファシリテーター】
◆ハーチ株式会社 代表取締役 加藤佑様

 食品ロス活用の事例の紹介に入る前に、ファシリテーターの加藤氏より、「食品ロスはなぜ問題なのか」「解決するにはどうしたらよいのか」について解説がありました。加藤氏が代表取締役を務めるハーチ株式会社は、社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」をはじめ、サステナビリティ領域のデジタルメディアを多数運営しています。

 日本で年間522万トン、一日に一人当たり133g(おにぎり一個分)発生している食品ロス。世界の温室効果ガス排出量のうち、食品廃棄・ロス由来のものが6~10%を占め、食品ロスは気候変動の大きな要因の一つになっています。また、日本では一般廃棄物の約3~4割を生ゴミが占め、その処理費用も大きな負担となっています。

食品ロスは「可食(食べられる)部分の廃棄」を指しますが、りんごの皮は食べるという人もいればそうでない人もいるというように、「可食部分」のとらえ方は人によって異なります。より広い意味での「食品廃棄・ロス」の問題を考えるうえでは、「どれだけ可食部分を増やすかも重要なポイントになる」と加藤氏。さらに、食品ロスは事業由来のものと家庭由来のものがほぼ半々となっており、家庭由来も大きなウェイトを占めていること、また、事業由来の食品ロスも消費者の意識次第で減らすことができることを指摘しました。

 では、食品ロスをめぐる問題はどのように解決していけばいいのでしょうか?加藤氏はイントロダクションのしめくくりとして、「予防→再利用(人間消費)→再利用(動物飼料)→素材リサイクル→栄養回収→エネルギー回収→廃棄」の順番で考えていくという階層図を提示しました。「一番大事なのは、食品ロスが発生しないように予防すること、そして人間ができる限り食べることです。それが難しいものに関しては飼料として再利用し、素材としてリサイクルし、最終的にはエネルギーとして回収していくということになります」

今回のテーマである「食品ロス」が私たち一人ひとりと密接にかかわる問題であることと、「廃棄」となるものをできる限り出さないような循環の仕組みが求められているということが見えてきたところで、実際に食品ロスを活用した取り組みの紹介に入っていきます。

まずお話くださったのは、株式会社日本フードエコロジーセンター代表取締役の高橋巧一氏。日本フードエコロジーセンターは2005年に神奈川県相模原市で稼働を開始し、1日に約35トンの食品ロスを受け入れ、選別・破砕・殺菌・乳酸発酵などの工程を経て、豚の飼料にリサイクルする事業を展開しています。できあがった飼料は、関東近郊の契約養豚農家に運ばれ、活用されます。

この事業が生まれた背景には、高橋氏の課題意識がありました。「日本は家畜の飼料をほとんど輸入に頼っています。これは安全保障上の問題でもあります。実際のところ、現在、世界的な穀物価格の高騰によって輸入飼料の値段が倍になり、畜産農家の廃業が相次いでいます。一方で、食品ロスは大量に発生し、年間約8000億円の税金をかけて生ゴミを燃やしている。食べ物が余っているなら、安全性や品質を担保して飼料にしたいと考えました」

 豚は食べた餌によって味が変わるため、日本フードエコロジーセンターでは養豚農家や肉屋さんのニーズに合わせて、飼料の配合をカスタマイズしているといいます。そして、育った豚肉を大手食品スーパー等でブランド肉として販売してもらうという、循環の仕組みづくりにも取り組んでいます。

さらに今秋には、脂の多さなどで飼料に向かない食品ロスをエネルギー回収できるようにと、同社の新事業としてバイオガスプラントを稼働させる予定です。日本が輸入に依存している家畜飼料とエネルギーを、食品ロスの活用によって解決しようとするアイデアと実行力に、会場参加者からは思わず感嘆のため息が漏れます。

 続いて、ワインきのこ株式会社 取締役 戸田達昭氏より、ワインの絞りかすを活用してシイタケを栽培する事業を紹介いただきました。戸田氏は、山梨大学大学院在学中に起業した山梨県初の学生起業家という経歴を持ち、山梨県を主なフィールドに、様々な分野で食品ロス問題の解決に取り組んでいらっしゃいます。ワインきのこの出発点は、山梨で大量に発生するブドウの剪定枝(枝の切りくず)でした。

「山梨では、ブドウの剪定枝を毎年畑で燃やすのですが、これをどうにかできないかというのが試行錯誤の始まりでした。バイオ技術を活用して、剪定枝にキノコを生やせないかと研究を重ねたのですが、うまくいかなくて。そのときに、ブドウ繋がりでもう一つ課題があると持ち込まれたのが、産業廃棄物となっていたワインの搾りかすでした。そこで、剪定枝とワインの搾りかすを混ぜてみたら、キノコが爆発的に成長するようになったんです。そこで、この技術で特許を取り、シイタケの生産・販売を始めました」と戸田氏。ワイン成分を吸わせることでアミノ酸が増え、甘く、癖の少ないシイタケができたといいます。

ワインきのこの特徴は、山梨の地域の特性を生かし、地域内循環を生み出している点にあります。「ブドウを作り、ワインを作って、これまでは廃棄していたワインの搾りかすをきのこに吸わせて、できたきのこを食べていただく。そして、きのこを収穫した後の廃菌床を肥料にしてまたブドウを育てる、という循環の仕組みです。廃菌床を使ってまたきのこを育てるということにも今チャレンジしています」

加藤氏はお二人のプレゼンテーションを受け、「日本フードエコロジーセンターもワインきのこも、食品ロスを活用するというだけでなく、商品としての付加価値を作ることを意識されていると感じる」とコメントしました。

 ここからは、料理の香りに食欲を刺激されつつ、しばしの対談タイム。戸田氏は、資源循環の仕組みを作るうえで、経済合理性を考える重要性を教えてくれました。「ぶどうの剪定枝など、分散型のバイオマスを収集するのにはコストがかかります。そのコストを回収するために最終商品を何にするのがよいかと考えて、マーケットのあるきのこに行き着きました。地産地消率を上げていくためには、分散型で仕組みを作り、その中で経済合理性を生み出すことが大切ですね」

 高橋氏は、循環の仕組みを成功させるための観点として「地域性」を挙げます。「ワインきのこの仕組みを東京でそのままやろうとしても、ワインの搾りかすが大量にあるわけではないのでうまくいかないのではないでしょうか。日本フードエコロジーセンターの仕組みも、他の地域では同じようにいきません。例えば、スーパーや百貨店が少ない地域では、そこからの処理費をあてにできない。関西などの養豚農家が少ない地域では、豚の飼料を作っても売れない。成功事例があると同じようにやろうとしてしまいがちですが、地域の資源、マーケット、組織風土、特性に合ったものを地域ごとに作り出していくことが大切だと思います」

さて、食事の準備が整いました。お待ちかねの試食タイムです。

今回は、レストラン モナリザ オーナーシェフ 河野 透氏が、日本フードエコロジーセンターのリキッド発酵飼料で育った豚肉とワインきのこのシイタケを、フレンチの2品に仕上げてくださいました。

《メニュー》

豚ロース肉のハーブ風味マリネのローストジョエルロビッション氏のじゃがいものピューレ添え
前日にマリネした豚ロース肉をシンプルに焼いて。
フランスを代表するシェフ、ジョエルロビッション氏の代表作とともに。

シイタケのポタージュ カプチーノ仕立て フレッシュトリュフ風味とソテー エスカルゴバター風味
泡立てた牛乳とトリュフを乗せたシイタケのポタージュと、
パセリとニンニクを効かせたシイタケのソテー。

河野シェフは、「豚肉もシイタケも香りがとても良い」「豚肉は脂身がとっても美味しくてびっくりした」とコメント。高橋氏と戸田氏も、料理から漂う香りを絶賛しました。

 河野シェフのレストランでは、以前から食品ロスはほとんど出ないといいます。「フランス料理では野菜の皮をフライにしたり、ムースやポタージュを作ったり、トウモロコシのヒゲをバターで焼いたりして料理にします。お客さんに出せないものはまかないに。料理人はいいものばかり食べていると思ったら大間違いで、ヘタばかり食べていますよ(笑)」。冒頭の加藤氏の、可食部分(食べられる部分)をどれだけ増やすか、という問いかけにもつながるお話です。

 また、河野シェフはレストランの従業員とともに、山梨や南魚沼などの農家を訪問し、果物の収穫や田植え・稲刈りなどを手伝っているそうです。「農家さんたちの気持ちがわかるようになり、無駄なく食材使おうと思うようになる」と河野シェフ。高橋氏も、「昔の人は自分でお米や野菜を育てていたから『もったいない』という言葉の意味がよくわかっていたんだと思います。生産の現場を知る、実体験として野菜を育てる、ということはとても大切ですね」と話しました。

最後に、食品ロスに対して今後どんなアクションを展開していきたいかをゲストの皆様に伺いました。高橋氏からは、「地域の中にある資源を使って、飼料、肥料、エネルギーを作り出し、付加価値のある畜産物・農産物を輸入に頼らず作り、消費者に買い続けてもらう。こういった循環の仕組みを、今後いろいろな地域で作っていきたいと思います」という力強いメッセージをいただきました。

戸田氏からは、「今後はワインきのこの技術を使って、シイタケ以外のきのこにもチャレンジしていきます。一方で、未利用資源を使っているというのはある意味作り手のこだわりでしかありません。大事なのは皆さんに美味しいと思ってもらえること。美味しいきのこを作り、しっかりと皆さんのもとに送り届けるということに取り組んでいきます」との一言。

最後に河野シェフからは、「毎食、料理を考えるときに、ゼロの状態から『何を食べようかな?』と考えて食材を買ってきて作る、というのは大変ですよね。家庭で料理をつくる方の苦労は、コロナ禍の自粛生活の中でとてもよくわかりました。僕が意識していたのは、自分が作る料理のリストをあらかじめ作っておいて、冷蔵庫を開けて、残っているものでリストの中のどの料理を作れるかなと考える。そのうえで、足りないものだけを買うようにしていました。そうすれば、毎日の料理づくりも楽になるし、食品ロスも減っていくと思います」と、家庭で食品ロスを減らすための具体的なアドバイスをいただきました。

まずは可食部分をできるだけ大きくとらえ、食べ残しを減らす。そして、地域に合わせた形で、経済性を担保しながら循環の仕組みを作っていく。私たち一人ひとりのとらえ方次第で食品ロスの可能性は大きく広がる—そんなことを感じさせてくれる夜となりました。

アクション実施概要

開催日時2023年7月26日(水)18:30〜20:00(開場18:00)
開催場所MY Shokudo Hall&Kitchen
(東京都千代田区大手町2-6-4 TOKYO TORCH 常盤橋タワー3F)
出演者
(順不同)
◆株式会社日本フードエコロジーセンター 代表取締役/獣医師 高橋 巧一様
◆ワインきのこ株式会社 取締役 戸田 達昭様
◆レストラン モナリザ オーナーシェフ 河野 透様
司会ハーチ株式会社 代表取締役 加藤佑様
定員会場参加:30名/オンライン参加:500名
参加費会場参加:2,000円/オンライン参加:無料
主催大丸有SDGs ACT5実行委員会/三菱地所株式会社 EAT&LEAD