SUSTABLE VOl.3 開催レポート

SUSTABLE(サステーブル) 2025 vol.3 【2050年の食卓はどうなる?日本らしい食の未来予想図を考える】開催レポート

SUSTABLE(サステーブル)2025~未来を変えるひとくち~第3回が2025年11月5日に開催されました。

 食従事者と消費者をつなぎ、未来の食卓に変化を起こす「SUSTABLE(サステーブル)2025」。今年の年間テーマは「日本らしい持続可能な食を考える ~ 復興・伝統・未来 ~」です。

最終回となる今回のテーマは、「未来」。気候変動や一次産業の担い手不足など、食を取り巻く課題が山積するなか、2050年の日本の食卓はどのようになっているのでしょうか。今回は、これまで食資源として光が当たらなかった「未利用魚」や「藻」をテーマに、食の最前線で持続可能な未来に挑むゲスト、そして食材の魅力を最大限に引き出すシェフとともに、日本らしい食の未来予想図を考えました。

【第3回ゲストの皆様(順不同)】
◆ てのしま 店主 林 亮平様
◆ 有限会社まんてん. 代表取締役 黒田 孝弘様
◆ 株式会社AlgaleX 代表取締役 高田 大地様
【ファシリテーター】
◆ ハーチ株式会社 代表取締役 加藤 佑様

イベント冒頭では、ファシリテーターの加藤氏が今年のSUSTABLEのテーマを振り返り、締めくくりとなる「未来」について解説しました。加藤氏が代表を務めるハーチ株式会社は社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」をはじめ、サステナビリティ領域のデジタルメディアを多数運営しています。

加藤氏は、2050年には世界の食料需要が現在の約1.7倍になるとの予測や、日本の農業従事者がこの30年弱で約半数にまで減少しているデータを提示。さらに、気候変動の影響でイカやサケの生息域が北上していくシミュレーションを共有し、海の生態系、担い手不足、食料安全保障といった課題が複雑に絡み合っている現状を説明しました。

続いて、日本料理店「てのしま」店主の林亮平氏が、和食料理人の視点から問題提起を行いました。トップシェフらと共に豊かな海を次世代に継承する団体「Chefs for the Blue」のメンバーでもある林氏は、まず衝撃的なデータを参加者に示します。日本の漁獲量は1980年代からの40年間で実に3分の1にまで減少。和食の根幹をなす昆布やカツオ、イワシといった出汁素材も、資源量が危機的な状況にあるというのです。

とりわけ日本の昆布の95%以上を生産する北海道では、天然昆布の漁獲量が下降の一途を辿っています。林氏はこの現状を確かめるべく、自ら産地へと足を運びました。特に、上質な「真昆布」の産地として知られる函館市の南茅部(みなみかやべ)エリアの状況について、実感を込めて次のように語ります。

「現場に行ってみて、南茅部の天然昆布の収量がほぼゼロだということに衝撃を受けました。料理人である私自身も、その状況を把握していませんでした」

さらに、「日本が水産資源大国と言われていたのは、もう遠い昔の話なのです」と述べ、まずは日本の海が置かれた厳しい現実を正しく知ることが未来への希望につながるのだと訴えました。

続いて登壇したのは、愛知県で水産加工会社「有限会社まんてん.」を営む黒田孝弘氏です。黒田氏が事業の柱としてきたのは、深海魚の「メヒカリ」。20年前にはほとんど知られていなかったこの魚を、いわばメヒカリのプロフェッショナルとして長年扱ってきました。

例えば、主力商品であるメヒカリを学校給食に導入する際も、当初は「聞いたことがない」と敬遠されがちでした。しかし、カルシウムや鉄分が豊富であるといった栄養価を粘り強く訴え続け、今では都内の学校でも提供されるまでに至っています。

そんな黒田氏が自身の使命をさらに強く認識する転機となったのが、漁船に同乗した経験でした。そこでは、規格に満たないサイズであったり、市場での値段がつきにくかったりする魚たちが、船の限られた保管スペースを確保するために次々と選別され、海へと戻されていました。しかも、深海から引き揚げられた魚たちのほとんどは、すでに命を落としています。黒田氏が大切に扱ってきたメヒカリも、その例外ではありませんでした。

「本当に5センチにも満たないようなメヒカリが死んだ状態で水揚げされ、全部海に捨てられていく現状を目の当たりにしました。しかし、死んだ魚を海に返しても餌になるだけで水産資源の回復には繋がりません。メヒカリだけでなく、様々な魚が廃棄される光景を見て、この未利用魚の問題は見て見ぬふりができないと、強く感じたのです」。

漁船の上で強まったこの問題意識は、黒田氏の新たな挑戦へと繋がっていきます。これまで加工時に廃棄していたメヒカリの頭と内臓は、「食塩で発酵させ、魚醤として世の中に流通させております」と黒田氏が語るように、新たな価値を持つ商品へとアップサイクルされました。さらに、地元の高校生と共に骨が多く敬遠されがちな未利用魚「ギス」の缶詰を共同開発するなど、次世代を巻き込みながら、捨てられる魚を価値ある食材に変える活動に力を注いでいます。

最後に黒田氏は、「一番疲弊しているのは一次産業の方々です。彼らが、きちんと生業として成り立つ仕組みを作ることが、何より大事だと感じています」と述べ、そのためには漁師に適正な対価が支払われ、加工業者が価値を加え、消費者がそれを理解して選ぶという循環を再構築する必要があると訴えました。

続いて、沖縄県で藻類の研究開発を行う株式会社AlgaleXの代表、高田大地氏が登壇しました。前職の商社で養殖魚の餌となる天然魚の貿易に携わっていた高田氏は、その経験から現在の養殖業が抱える構造的な問題を指摘します。

「マグロを1キロ育てるために、およそ13キロの魚を与えるというのが今の養殖業の実態です。餌を天然魚に依存する限り、養殖は根本的な解決策にはなりません」。

この課題を解決する鍵は、生態系のピラミッドの最も土台にある存在、すなわち「藻類」にあると高田氏は語ります。魚が体内で作るDHAも、元をたどれば藻類が作り出したもの。藻類を直接、安価で安定的に生産できれば、天然魚を獲らずに済むのではないか。

この着想を実現するため、高田氏はまず、コストを抑えるためにこれまで廃棄されていた沖縄の「泡盛粕」などを培養に活用する道を探りました。しかし、こうした未利用資源は成分が不安定なため、従来の発酵方法では安定した生産が困難であるという壁に直面します。

この壁を乗り越えるために開発されたのが、AIを活用して藻類の発酵を精密にコントロールする「AI発酵技術」でした。 これは単に発酵を自動化するのではなく、AIが藻の成長段階をリアルタイムで把握し、必要な栄養素を最適なタイミングで供給することで、これまで最大の課題であった原料のばらつきを乗り越えるという、画期的なアプローチだったのです。

そして、この挑戦の過程で、思わぬ発見がありました。泡盛粕に含まれるクエン酸を藻が吸収することで、カニや貝類のような深い旨味成分「コハク酸」が生成され、偶然にも「美味しい藻」が誕生したのです。

この新素材「うま藻」は、マサバの13倍のDHA、羅臼昆布の1.5倍のグルタミン酸を含み、栄養と美味しさを両立しています。高田氏は、この「うま藻」が「魚に続く“美味しい”DHAの供給源として市場創出」につながると語り、その先にさらに壮大なゴールがあることを示唆しました。

東日本大震災の後、3年間禁漁だった福島沖で魚が戻ってきた事例を挙げ、「海を休ませることができれば、水産資源は必ず回復するのです」と高田氏は語ります。そして、自社の技術でそのための「休ませるチャンス」を与えていきたいと続け、そのビジョンを語りました。

「私たちが目指すのは、その先にある『魚を減らさない養殖』の実現です。うま藻が養殖魚の餌となり、海の生態系を健全な状態に戻していく。その循環を私たちの技術で実現することが、未来への貢献だと考えています」。

黒田氏と高田氏がお話しされるなかで、試食が提供されました。今回は、林亮平シェフが、登壇者の食材を活かした2品の特別メニューを振る舞ってくださいました。

《メニュー》
メヒカリ焼き南蛮
◆ うま藻粕汁

一品目は、黒田氏が扱うメヒカリを使った焼き南蛮漬けです。林シェフは、「あまり馴染みのない魚だからこそ、調理法はあえて皆様が味を想像できるものにしています」とその意図を説明します。メヒカリが持つ豊かな脂を活かし、揚げるのではなく炭火で焼き上げることで、香ばしさと満足感のある一皿に。味の決め手には黒田氏開発のメヒカリ魚醤が使われ、その奥深いコクが会場の参加者を魅了しました。

新しい食材を提供するときは、消費者が馴染みのある調理法やフォーマットにすることで、抵抗なくその魅力を感じていただけるようにする。食材の魅力を消費者に伝えるための林シェフのひと工夫が、とても参考になりました。

二品目は、高田氏の「うま藻」を使った粕汁です。驚くことに、動物性の出汁を一切使わず、うま藻の持つ昆布やカニのような複雑なうま味だけで、深い満足感のある味わいを実現していました。うま藻の持つポテンシャルが味わいとして見事に表現され、食の新たな可能性が提示されていました。

トークセッションでは、会場から上がった「消費者として何ができるか」という問いに対し、登壇者たちがそれぞれの視点で応えました。

黒田氏は、家庭での魚食文化の衰退に触れ、「まず親御さんがお子さんに魚を食べさせるということが、大事だと考えています」と、日々の食卓から変化を起こす重要性を語ります。

続いて林氏は、「消費者の選択こそが未来を決定づける」のだと訴えました。豊かな水産資源、多様な魚種、そしてそれらを享受してきた日本の食文化そのものが、このままでは失われてしまうと警鐘を鳴らし、次のように語ります。

「何もしなければ、これらは確実になくなります。だからこそ、消費者の皆さんが『何を残したいのか』を意識しながら、『何を食べるか』『何を買うか』ということを日々選んでいく必要があります」と、切実な言葉で「買い支える」意識を促しました。

一方、高田氏は少し異なる角度から、「もっと美味しく食べていただきたい」と提案します。「目の前にあるご飯をもっと美味しく食べたいと常に思うことで、『なぜこれは美味しいのだろう』『誰が作っているのだろう』という興味が湧いてくるはずです」と述べ、食への探求心こそが、生産者や背景への理解に繋がる第一歩だと呼びかけました。

あっという間にイベントは終盤に。参加者に向けた最後のメッセージとして、登壇者たちはそれぞれの決意を語りました。

黒田氏は、メヒカリの加工廃棄物の活用や未利用魚問題といった課題に触れ、「私たちの取り組みは小さいものですが、課題解決に向けた一歩を着実に踏み出していきたいと考えています」と、今後の抱負を述べました。

続いて高田氏は、「今のままでは、たとえば2050年には寿司屋でマグロとサーモンしか食べられなくなってしまう」と、未来の食卓の姿を訴え、一人ひとりの購買行動や消費行動を変えていくことを促しました。

そして最後に林氏は、次のように力強いエールを送りました。「日本の食文化は、世界最高峰だと考えています。この素晴らしい食文化を次の世代にどう残すか。皆さん一人ひとりが、そのチケットを、バトンを持っていると思うのです」

登壇者からのメッセージを受けて、参加者からも「今日見聞きしたことを、2050年を担う自分の子供にしっかり伝えようと思います」「諦めずに、無関心にならずに小さなことですがそれを続けていくことの大切さも改めて感じました」など前向きなコメントがたくさん寄せられました。

今回のイベントは、日本の食が直面する厳しい現実を踏まえつつも、なんとかそれを乗り越えようとする前向きな気持ちが会場に充満していました。また、まずは何よりも現状を知ること。それ自体が大きな一歩になるということを多くの参加者が実感したのではないかと思います。

生産者、料理人、そして参加者の想いが一体となり、ともに日本の食の未来を変えていく。2025年度のSUSTABLEの最終回にふさわしい、希望と決意に満ちた一夜となりました。

登壇者の商品を実際に手に取ってみたい方へ

登壇者の商品が購入できる店舗やオンラインショップの情報を、当日配布した資料(表面下部)に掲載しています。気になる方は、ぜひご覧ください。
当日配布資料はこちら

アクション実施概要

開催日時2025年11月5日(水)18:00〜20:00(開場17:30)
開催場所MY Shokudo Hall&Kitchen
(東京都千代田区大手町2-6-4 TOKYO TORCH 常盤橋タワー3F)
出演者(順不同)◆ 有限会社まんてん. 代表取締役 黒田 孝弘様
◆ 株式会社AlgaleX 代表取締役 高田 大地様
◆ てのしま 店主 林 亮平様           
司会ハーチ株式会社 代表取締役 加藤佑 様
定員会場参加:30名/オンライン参加:500名
参加費会場参加:2,000円/オンライン参加:無料
主催大丸有SDGs ACT5実行委員会/三菱地所株式会社 EAT&LEAD